1.ソール・ライターを探しに　ニューヨーク写真旅

ソール・ライター《待つ女》1958年 発色現像方式印画　ソール・ライター財団蔵 ⒸSaul Leiter Estate

 

ソール・ライター《Don’t Walk（赤信号）》1952年 発色現像方式印画　ソール・ライター財団蔵 ⒸSaul Leiter Estate

 

Saul Leiter’s footprints

1952年から約60年間ソール・ライターが暮らしていたアトリエへ。

生前のライターを知る人物に、彼の人生の転機について尋ねた。

 

アシスタントであり良き友人だった18年 ―― マーギット・アーブ

ライターのアシスタントを務めていたマーギット。２０１３年にライターが亡くなってから財団を立ち上げ、写真を整理する作業を進めてきた。

「スライドやネガは約30万枚。商業写真家としての作品とアーティストとしての作品を分け、データベースに入力し、スライドやプリントの入った箱には整理番号を付けました。『エスクァイア』や『ハーパスバザー』などの月刊誌もあります。さらに地下の倉庫には２千冊の本も」

　残されたカメラはフィルムカメラが25台、デジタルカメラが26台。新しいカメラを購入すると、いつもマーギットが説明書替わりとなってライターに使い方をレクチャーしていたそう。

 

1936年、13歳のときに買ってもらった最初のカメラ「デトローラ」。デトロイトにある会社がつくった安価なもの。両親にねだって買ってもらった。

 

「ライターが１９４６年にニューヨークに来たときに買ったのが、二眼レフカメラ『グラフレックス』の中古品。そして35㎜のライカも。その頃、アンリ・カルティエ＝ブレッソン、ロバート・フランクなどがストリートフォトでライカを使い始めた時期でした。ポケットからすぐ出せるような手ごろなカメラに、大きく変わったわけです」。

　最新技術を都度取り入れてきたライターは、デジタルカメラにスイッチするのも億劫ではなかった。それは２００４年、80歳のとき。いちばんはじめに使ったデジタルカメラは、オリンパスのSLR E-1だ。

「彼の私物を相続することは、彼が私に職を与えてくれたということ。責任としてはとても重大ですが、光栄で誇りに思っています。これから私が一生かけてやっていかなければならない仕事だと思っています」

 

ソール・ライター没後、作品整理と同時並行して、ますます要請が増える展覧会や写真集の制作にも対応している。ソール・ライター財団／saulleiterfoundation.org

 

ライターは日本美術の影響を受けていました ―― ポーリーヌ・ヴェルマール

「ライターが亡くなったとき、私はたまたまパリにいて、マーギットからメールが来て知りました。ちょうどその日はＮＹでトーマス・リーチ監督の映画（※）のプレミアを行っていました。亡くなった日にプレミアだったんです。異様な、悲しい時期でもありました」

（※）『写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと』

 

　ＩＣＰで働き、財団役員でもあるポーリーヌはBunkamura ザ・ミュージアムで開催される『写真家 ソール・ライター展』のキュレーターを務めている。

「彼が日本で展示することを知ったら、喜んだに違いないんですよ。彼は日本の美に関する文化に、関心を持っていたんです。彼の書庫には100冊強の日本に関する本がありました。浮世絵、歌麿、広重、俳句に関する本もあった。禅について書かれた本も」

　ライターの作品は、日本の影響も多分に受けているのだ。

 

ライターが所蔵していた日本の浮世絵が描かれた本

 

「日本のアートは西洋の影響があったとしばしば耳にします。でもこれは一方通行ではなくて、日本の影響が西洋にも感じられるんです。ライターは（ピエール・）ボナールと（エドゥアール・）ヴュイヤールが非常に好きでしたが、2人は日本美術に影響を受けた画家でした」

　今回の日本の展示では、いままで展示されたことのない、ヌード作品なども観られる予定だ。

「そして、絵ですね。多くの有名な写真家はいるけど、ライターは写真家だけではなくて絵描きでもあった。それは特別なことだと思います」

 

 

ソール・ライター《無題》 1970年頃-1990年頃 グワッシュ・水彩絵具、ゼラチン・シルバー・プリント

ソール・ライター財団蔵 ⒸSaul Leiter Estate